【製造責任者・江上の視点】 籠屋CLASSIC -新生姜-

新生姜の香りを生かすビール ——茶で余韻をつくり、酸で後口を引き締める


新生姜には、ホップだけでは表現しきれない、瑞々しく華やかな香りがあります。
籠屋CLASSIC[新生姜]では、その香りを主役に、
黄金生姜で味わいの芯を、茶で余韻を、酸で後口のキレを組み立てました。
生姜の個性が料理を引き立てる、食中酒としてのビールです。

はじめに —— なぜ新生姜をビールに使うのか

籠屋CLASSICでは、山椒、柚子、茶など、
日本の食文化と深く結びついた素材を使い、
その個性をビールの中でどう生かすかを考えてきました。

今回の主役は「生姜」です。
生姜は、鮨に添えられるガリをはじめ、和食に欠かせない素材です。
それほど身近でありながら、生姜の香りを魅力的に引き出したビールには、
これまで私はあまり出会ったことがありませんでした。

生姜が持つ瑞々しさや、花のような明るさ。
一般的なホップの香りとも重なりきらないこの個性を、
食に寄り添うビールとして表現できないかと考えました。

香りの立ち上がりから味わいの余韻までが自然につながり、
料理とともに楽しむことで魅力が深まる。
そんな、日本の美しいビールをつくりたい。
籠屋CLASSIC[新生姜]は、この思いから始まりました。

製法について
2種類の生姜から、異なる温度で風味を引き出す

使用したのは、高知県四万十市にあるマルシン生姜ファームの新生姜です。
まず2kgを取り寄せ、実際に切って香りを確かめたところ、その瑞々しさと上品さに驚きました。
辛みが強く前に出るのではなく、柑橘や花を連想させる、明るく繊細な香りがあります。
この香りをビールの中心に据えるため、さらに4kgを追加しました。

新生姜をピューレ状にして真空包装し、
低温調理器で65℃・15分間加熱した後、
発酵中のビールに加えて漬け込みました。 

生のまま加えれば新生姜の香りは鮮明に残りますが、
辛みや青さが突出する懸念があります。
逆に高温で加熱すると、フレッシュな香りが失われ、
煮た生姜を思わせる香味へ移っていきます。

そこで今回は、穏やかに熱を入れることで、
瑞々しい上立ち香をできるだけ残しながら、
辛みや青さを和らげ、ビールとの一体感をつくることを狙いました。

一方、新生姜だけでは香りが繊細で、飲み込んだあとの印象が弱いと感じました。
そこで、高知県産の黄金生姜をワールプール工程で投入しました。
新生姜では抑えた熱を、黄金生姜にはあえてしっかり加えることで、
温かみのある香味を麦汁になじませ、味わいの芯をつくりました。

茶で余韻をつくり、酸で後口を引き締める

ワールプール工程では緑茶の茶葉も少量加えています。
生姜の辛みだけでは味わいが細く、余韻が単調になる可能性があります。
そこで、茶の渋みと旨みで奥行きを加え、
飲み込んだあとの余韻を支えることを狙いました。

仕上げには、乳酸発酵によってつくった酸味のあるビールを約25%ブレンドしています。
酸っぱいビールにするためではなく、生姜と茶の余韻を残しながら、
後口に輪郭とキレを与えるための酸です。

● 新生姜は、立ち上がる瑞々しい香り。
● 黄金生姜は、後半を支える温かみと芯。
● 茶は、飲み込んだあとに続く余韻。
● 酸は、全体を引き締め、次のひと口へつなぐ役割。

それぞれの香味が現れては重なり、静かに消えていく。
目指したのは、そんな「つややかで奥深い」ビールです。

テイスティング

香りの中心にあるのは、切りたての新生姜を思わせる、瑞々しく上品な香りです。
乾燥生姜やスパイスのような重さはなく、柑橘を思わせる明るさがあります。
その奥には、ジャスミンやすみれのような花を連想させるニュアンスも感じられます。

香りだけがビールの上に浮いているのではなく、
発酵香や麦芽の風味と自然に溶け合っていることも、このビールの特徴です。
口に含むと、端正でなじみのある麦の味わいに新生姜の香りが重なり、
その後から黄金生姜の穏やかで温かみのある風味が現れます。

味わいはドライでありながら、どこかジューシー。
細く尖った印象ではなく、茶が余韻を支え、酸が全体の輪郭を整えています。
酸味も直線的ではなく、柔らかな丸みがあり、全体に適度な厚みとまとまりを与えています。 

ジンジャーエールを思わせる軽快さと親しみやすさを持ちながら、
甘さに頼らず、食事の中でゆっくり味わえる仕上がりです。
発酵飲料ならではの、生き生きとした躍動感も感じられます。

このビールから見えてきたこと——生姜と料理の可能性

今回改めて感じたのは、生姜をビールに生かすことの大きな可能性です。
生姜は香りが高く、辛みもあるため、合わせる料理を選ぶ素材でもあります。
しかし、その明確な個性が、料理の中で花開く場面も多くあると思います。 
料理と料理の間に飲めば、生姜の風味と酸が口の中を整え、次のひと口へつなぐ。
料理の香味と重なれば、薬味のように輪郭を与え、味わいの一部として溶け込む。

鮨では、生姜の風味がガリや薬味のように働き、酸が魚の脂や余韻を整えてくれるのではないか。
天ぷらや肉料理では、生姜が油脂に軽やかさを与え、後口を引き締めてくれるのではないか。
そんな可能性を感じています。

一方で、生姜の風味が料理を引き立てるのか、あるいはぶつかるのか。
その境界は、まだ十分に分かっていません。
だからこそ、このビールとともに探っていきたいと思っています。

籠屋CLASSIC[新生姜]で試みたのは、
生姜という素材から、ビールと食の新しい接点をつくることです。
料理と重なることで生まれる新しい表情を、ぜひ一皿とともにお楽しみください。

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